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VOL.3 ウィーンのお休み事情

7月に入ると、ウィーンの街中に何かいつもと違う雰囲気が漂い始めます。例えば、日中の街に子どもの姿が増える(特に父親と一緒の子供の姿をよく見かけるようになります)。街中の路上駐車スペースが空いている(ウィーンから車で行ける隣国イタリア、クロアチア、スロベニアは人気の旅行先です)。閉まっている店が増える(2ヶ月ほど閉めるお店も珍しくありません)等々。普段からゆったりした雰囲気のウィーンですが、7・8月の2ヶ月間はバカンスシーズンに入り、ますますのんびりした雰囲気になるのです。日本で言えば、お盆の時期の雰囲気が2ヶ月続く感じでしょうか。

 

娘が通う幼稚園は8月いっぱいお休みですが、6月の終わりに幼稚園から保護者に7月に幼稚園を休む予定の家族は、事前に幼稚園に教えてくださいと連絡がきました。7月からバカンスに行ってしまって、幼稚園に来なくなるご家族もいるので、生徒の数に合わせて先生たちのお休みを調整するという趣旨のようです。実際、7月半ばから見かけなくなる先生もいました。夏でも1週間ほどしか休みがない幼稚園もあるようですが、そういうところでも先生たちはもちろんバケーションをとるので、夏の間は代わりの先生が来たりするようです。そのため、子どもが幼稚園に行くのを嫌がるようになったので、結局1ヶ月休ませたという話も聞きます。お盆期間に数日お休みがあるだけの日本の保育園とはなんと違うのだろうと驚かされます。

 

オーストリアではどれだけ有給休暇が取れるのか調べてみたところ、オーストリアの休暇法 (Urlaubsgesetz 2条)で、30日(月曜から土曜までのworkingdays)の有休が規定されていました。そして、法律で規定されているだけでなく、皆が権利を行使し、会社もそれを奨励しているようです。オーストリアの会社で働き始めて1年になる私の友人が5週間休暇をとったところ、人事に呼ばれたので、怒られるのかと思ったら褒められたと話していました。1年働くとやっと10日の有休が認められるだけ、それでも毎年使い切る人は少ない日本とはずいぶん大きな差があります。

 

オーストリアでは有休が多いだけではありません。ウィーンに来た当初、金曜日だけ夕方4時頃から道路が混み始めることが多く、不思議に思っていました。日本人のママ友に、オーストリアでは金曜日は早めに仕事が終わる人が多いらしいよと聞いて半信半疑だったのですが、これもオーストリアの法律を勉強して、その理由がわかりました。オーストリアの労働時間法(Arbeitszeitgesetz 3条)では、日本と同じく、1日8時間、週40時間の労働時間が定められているのですが、多くの会社で週40時間労働を38時間に減らす労働協約が締結されているのです。そのため、普段は5時や6時まで働いている人も金曜日は3時や4時に仕事を終えて帰宅するので、早めにラッシュアワー渋滞が始まるということのようです。プレミアムフライデーがオーストリアではしっかり定着しているようです。

 

他にも労働者を長時間労働から保護する法律として、「閉店法」(Oeffnungszeitengesetz)があります。ウィーンでは日曜・祝日に全ての店舗(飲食店は除く)が閉まるので、買い物ができないのですが、それは、この法律で、日曜・祝日の営業が禁止されているからです(同5条)。この法律はもともと日曜日を安息日とする宗教的意義をルーツとし、その目的は労働者保護とともに、小規模小売店の保護や家族の時間の尊重等にあるようです。日本のように24時間営業のコンビニがあちこちにあり、夜中まで営業しているスーパーも珍しくない社会に慣れきっていると、日曜日に全てのスーパーが閉まるという事実をなかなか受け入れられず、慣れるまで相当時間がかかりました。土曜日にうっかり買い物し忘れるという失敗を何度したかわかりません。平日は賑やかな巨大ショッピングモールが日曜は一斉にシャッターを下ろして巨大な廃墟のようになっているのを見るのは一種のカルチャーショックでした。もちろん、この法律には例外もあって、ウィーン市内で数店舗だけ日曜・祝日も営業しているスーパーがありますし、ガソリンスタンドに付属する店舗は日曜・祝日も営業しており、日本のコンビニに近い役目を果たしているようです。 土曜日の営業は午後6時まで、平日の営業時間も午前6時から午後9時まで(同4条1項)、しかも1週間の営業時間が72時間を超えてはいけないと規定されているため(同3項)、平日でも7時半以降営業しているスーパーは稀です。土曜日も6時までしか営業していないことに気づかず、家族で出かけて夕方帰ってきたらお店が閉まっていて、ぎょっとしたこともあります。しかし、日曜祝日に必要なものも平日や土曜日に買えばよいわけで、こういうものだと一旦割り切ってしまえば、それほど不便でもありません。365日24時間営業する店舗が増えても、全体としての購買量が増えるわけではなく、単に消費が分散されるだけだと思うと、抜け駆けを許さず、全ての店舗を一斉に営業禁止とすることは経済的合理性が高く、労働者を長時間労働から保護し、日曜日は家族と過ごす日として大切にする、とても良い制度だと思うようになりました。しかし、近年、規制緩和の方向に進んでいるようで、ザルツブルクにも年中無休で平日も23時まで営業しているスーパーが出来たり、閉店法が憲法で定める取引の自由に反するとして憲法訴訟が起こされたりしている(合憲判断が下されましたが)ことを知り、少し残念な気持ちです。

 

オーストリア経済は順調ですが、オーストリア人はあくせく働くわけでもなく、家族との時間を大切にし、余暇を楽しんでいるように見えます。日本との違いを考えるとき、日本の消費者はオーストリアよりもずっと便利なサービスを享受しているけれど、それが非効率で無駄なサービスにつながり、結局非生産的な長時間労働環境を生み出す一因になっているのではないかと思ったりしています。

 

オーストラリアの風景

 

オーストリアの山岳地方の夏の風景です。

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